鯛が「今この瞬間」について話す

魚類が自分にとって大切な「今この瞬間」を書き残す

奇跡みたいな「完璧な夏の日」の話

大人になればなるほど、絶対に忘れたくない時間が増えていく。それはなんだか、本当に幸せなことだと思うのだ。



ELLEGARDEN
Get it Get it Go! SUMMER PARTY 2023
2023.08.12 at 舞洲スポーツアイランド



彼らのライブに、行ってきた。
(このブログはライブのセトリ、MCのネタバレを多大に含みます。また、MCは一部ニュアンスで書いている部分がございます。ご注意ください)



ライブの話をする前に、少しだけ私の話をしよう。


私は彼らに出会うのが、少しだけ遅かった。
中学生だった頃の私に「このバンドいいよ」と音楽好きの父が勧めてきたバンド、それがELLEGARDENだった。
父から初めて渡されたシングルは「Space Sonic」。多分、あの時は狂ったように聴いていたと思う。


当時陸上部だった私は、試合前にMP3で彼らの音楽を自分を鼓舞するように聴いていた。
試合に出るのは、とても怖かった。
でも、彼らの音楽が、私の踏み出す一歩を支えてくれた。試合中の一番しんどい時に、何度も彼らの音楽が頭の中で鳴っていた。


それからすぐ、私が高校生に上がる直前に、彼らは無期限活動休止した。


さらにそれから何年も経ったが、やっぱり私はELLEGARDENを聴いていた。
でも、まだ彼らのライブに行ったことのなかった私にとって、彼らは「数ある好きなバンドの中で、ちょっとだけ頭の抜けた好きなバンド」でしかなかったのだ。それは、「会ったことのない彼らの存在」が、自分の中でまだ曖昧だったからなのかもしれない。


そしてELLEGARDENが活動再開をしてからも、彼らのライブに行けることはまずなかった。
そりゃそうだ。私のように14,5年、いやそれ以上彼らのことが好きで応援していても、一度も彼らのライブに足を運べなかった人など、山のようにいるのだから。


16年ぶりの新譜を引っ提げて開催されたライブハウスツアーでは地元公演も開催されたが、ものの見事に落選した。
そんな中、「Get it Get it Go! SUMMER PARTY 2023」の開催がアナウンスされた。

自分の中で、かつての推し周りのこと、さまざまなこと、いろんなことのケリがついたタイミングでの、万越えキャパのライブ開催。
根拠はないけど、「なんとなく、今かもしれない」と思った。


そして、その根拠のない予想は見事的中し、私は彼らに会いに行くチケットを手に入れた。



本当に、本当に幸せな一日だった。
ライブ前、頭上にミストが撒かれたことでできた、ステージに架かる虹。まるで鉄板のような恐ろしい暑さが立ち上る、熱を持った地面。汗であっという間にビショビショになるハーフパンツ。モッシュの中で、窒息しそうなほどにもみくちゃになるあの感覚。一生忘れないであろうあの夕陽。周りを少し見渡せば、全員が同じ曲を一緒になって歌っている。


目の前に、ELLEGARDENがいる。



そんな中に、あの奇跡みたいな一晩はあった。



ライブの中盤、「多分もうこの先、このサマーパーティーみたいな規模のライブはオレらはしないと思う。何故ならオレの人生の夏はもう終わりかけてるから。でも今日はまだギリギリ夏のど真ん中だから」
そう語る細美さんの姿に、「あぁ、やっぱりもうすぐさよならなのか」とそう思った。でもそれは、細美さんが前々から言い続けてきたことだ。仕方ない。仕方ないけど、でもさみしい。



「今ちょうど夕陽が沈みかけてるんだけど、みんな見える?オレ、今までガンジス川に沈む夕陽もナイル川に沈む夕陽も、ハバナで海に沈んでいく夕陽も見てきたんだけど、多分オレ、今日観た夕陽のことは絶対忘れないと思うんだよな。死ぬ時にお前らのことは思い出さねえと思うけど(笑)、でも走馬灯でガキの頃あった悲しかったこととか、大人になって言われて嬉しかったことがババババーって流れる中に、今日の夕陽が絶対入ってると思うんだよな。」


細美さんのその言葉に、後ろを振り返る。


本当に、本当に綺麗な夕陽だった。あの夕陽を、あの日あの場でエルレのみんなと一緒に見られたこと、そんな奇跡みたいな瞬間、もしかしたらもう二度と来ないかもしれないな。
そのことだけでもう、十分だった。
この日の夕陽を、私も忘れずにいたい。


「さよなら夕陽!The Autumn Song!」



「……完璧な夏だね」嬉しそうに、ぽそりと細美さんが呟いた。Perfect Summerのイントロの印象的なリフが、先ほどよりも夕陽が落ちかけた夏の空にリフレインする。本当に、こんなに完璧な夏はないんだろうなと思った。



細美さんが歌詞をトチってしまい、歌い直しをしたサンタクロース。高田さんのベースのミスのことを話題に出し、笑いを呼びながらも「この曲だけはちゃんとみんなに届けたくて」と漏らすその言葉に、胸がギュッとなる。


「夏だけど、そんなお前らに1000個のプレゼント持ってきた」


もしかすると細美さんは、本当に1000個のプレゼントを届ける気持ちで、歌っているんじゃないか。
それも、会場に来ている一人一人に、1000個分。


「青いガラス玉に僕らの冒険が
 どこまでも続くように願いをかけといた」


少し上に挙げた左手、その手の中に、目には見えない青いガラス玉を細美さんは掲げていた。


細美さんのその手の中に、「僕らの冒険」がまるであるかのように。
いや、あれは、本当にあったのだと思う。


この瞬間が、このバンドとの時間が、どこまでも続いてほしい。そう願うことしか、私にはできないけれど。



右を見れば、一人で来たのであろう私より年齢が少し上ぐらいの男性が、細美さんのMCを聞いて涙をぐしぐし拭っていた。
左を見れば、横一列になった5,6人の若い男性たちが、肩を組んでずっと楽しそうにジャンプしていた。曲が終わると、嬉しそうにハイタッチをしていた。
目に入る光景全てが、まるで奇跡みたいだった。



後半、Make A Wishの曲フリで、「願い事をしよう」と細美さんは言った。
「願わくば……」とメンバーをいじる願い事に、メンバーと会場から穏やかな笑いが漏れる。


「みんなも小さくていいから考えてて」
そう投げかけられて、その瞬間の願いを必死に考えた。


『願わくば、この瞬間のことを一生忘れませんように』


そう願った。だって、私はもう二度と、彼らのライブに来ることはできないかもしれないから。


そしてその直後、細美さんの願い事に愕然とした。



「……願わくば、死ぬまでにもう1回、お前らとコレ(野外)ができますように!!!!!!!!」



あぁ、敵わない。そう思った。



つい先ほどのMCで、「もうこの規模のライブはしない」と言っていたのに。
私は今日、初めて彼らのライブに来たはずなのに、彼らはいとも簡単に、こちらの想像を超えていく。



さらに別のMCで、細美さんはこう続けた。
「サマーパーティーの大阪やZOZOが終わる頃にはオレの人生の答えがもう出てて、それをお前らにバシッと伝えて、『見てろよお前ら、オレはもう老いた、ずっと若いままじゃいられないし、いろんなものも手放しちまって、あとはもう枯れていくだけだ、その姿を見とけ』ってやるつもりだったのに、今もまだ答えは出ないままなんだよ。
きっとレコードも出すし、また(サマーパーティーも)もう一回やりたい。あと数年踠き続けると思うんで、よろしくお願いします!!!!」



私は、この希望に縋ってもいいのだろうか。
少なからず、「今日がはじめましてで、そしてさよなら」になる覚悟はしてきた。なぜなら、彼らもずっとそう言っていたから。でも、「その先」が自分の目の前で提示された。私はまだ、彼らとあともう少しだけ、一緒に同じ時を歩むことができるのだろうか。



「お前ら、歳なんか関係ねーかんな。教師や親にお前にはそんな大それたことできないって、もしかしたら親友や恋人にも言われることがあるかもしれない。でも、自分だけは自分を信じてあげろよ」
「お前がお前のこと信じてやれなくてどうすんだよ」


細美さんのその言葉を聞いた時、私は私のことをちゃんと信じてやれているだろうか、と思った。
信じているようなフリをして、本当は「お前になんかできねえよ」と心のどこかで、囁く弱い自分がいるのではないか。



「行こうぜ」「行けるだろ」
曲の合間に何度も投げかけられる、その一言を多分私は、これからの人生で何度も思い出す。
細美さんから貰ったその言葉が、彼らの紡ぐ音楽が、私が私を信じるための勇気に変わる、根拠はないが、きっとそんな気がするのだ。



別に、忘れたくないことを忘れないことが正義ではない。どう足掻いたって人は忘れる。別に忘れることだって悪ではない。忘れるからこそ人は生きていけるというのだって、間違いのない事実だからだ。

ただ、そうであるとして。いいも悪いも関係なく、私は私のために、私が覚えていたいことを、これからもずっと覚えていたい。今日この瞬間を、忘れたくないと思った。ただそれだけの話なのだ。



先日のブログで、私は夏のことを「自分にとっては春よりも強い、さよならの季節」だと表現した。
が、それはたったの一晩、もっと言えばたったの数時間で全てが塗り替えられてしまった。



まあ、厳密には「さよならがないわけではない」のだ。彼らがMCでこぼしていたように、きっと絶対、彼らとの別れもいつか来る。だけど、その「いつか来る終わりの気配」を感じながらも、私と彼らは今やっと始まったし、そうしてまだあと少しだけ、私は彼らと残りの時間を歩むことができる。そう思えるのが、こんなにも心底嬉しい。



終わりの近づく足音と、
だけどまだ終わらないという微かな希望と、
暑すぎる太陽と、
気が狂うような熱気と、
一生忘れることのない夕陽と、
祈りのような願いと、
奇跡に満ち溢れた瞬間と、
存在した確かな愛と。
そこに私の約15年分の想いも乗っかってさ。
会場にいた全員の想いも乗っかってさ。
1000個なんかじゃ足りねえよな。


「頑張ろうぜクズ共!」
「またどっかの汚ねぇライブハウスで会おうぜ!」


細美さんがそう最後に残した言葉は、彼らと必ずまた再会するための約束の指切りであり、また彼らにきっと会えるというお守りの言葉であり、どうしようもなく希望だった。



必ずまた会おう。



行こうぜ、こっから。