鯛が「今この瞬間」について話す

魚類が自分にとって大切な「今この瞬間」を書き残す

「今この瞬間」とか「お前はどう生きるか」とか






あれからずっと、たった二日前のことをずっと頭の中で繰り返している。夢でも奇跡でもなんでもない。あの日はただただ、私にとっての「現実」だった。




Diamond Dance 2023
2023.12.09 at 松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール



(これはライブレポではなく、ライブに参加した人間の日記とも呼べないような内容です。一部セトリ、MC等のネタバレがございます。また、MCは個人によるニュアンスも含んでおりますので、ご了承ください。)






先日、悲しいことがあった。
私が学生の頃から好きだったロックスターが死んだ。
そうでなくとも私はこの1年間、かつての推しの芸能界引退をずっと引きずり続けていて「世の中結局最後はさよならばっかりじゃねえか、もうこんな思いなんてこりごりだ」って何度も思い続けていた。人の死と芸能界引退を横並びにするつもりはないけれど、それでも私はかつての推しの「表現」が心の底から大好きだった。それがもうこの先一生その表現が観られないということ、それっていわば「表現の死」みたいなもので、もう本当に、その現実が耐えきれなかった。
まあ、私のどうしようもなく「別れ」や「喪失」に耐性のない性格も関係しているだろうけど。


そしてその現実に、飽きもせず何度も悲しんでしまうことに対してずっと「こんなことで何度も何度も傷ついてバッカみてえ」と自分を半ば責める気持ちもあった。
けれど、それすらももう「諦めた」のは彼の訃報が飛び込んでくる数日前のことだった。
しょうがねえじゃん。もう悲しいもんはいつまで経っても悲しいよ。しょうがねえって。そう半ば諦めにも近いような形で、自分を許すことを決めた。



でも、そう諦めた数日後にあれだ。



もうなんか、全部が嫌になった。私が当たり前の顔してひょいっと帰ってくるもんだろうと勝手に思い込んでいたあの人は死んでしまった。ほーら、やっぱり全部最後はさよならなんじゃねえか。なんなら私は彼をライブで一度も目にすることがないままだったけれど、でも音楽を再生すれば何度だって会えてしまう。でもそれでもずっとずっと悲しくて、涙がこぼれるもんはこぼれてしまう。




今年、私の中にあまりにデカい爪痕を残していった ELLEGARDENとも、きっといつかこうなってしまうんだろうな。あーあ。本当にやんなっちゃうな。

そうやって、全ての出会いが必ず行き着いてしまう「さよなら」のことを考えてしまうと、もう本当にどうしようもなかった。




そんなことぼんやりを考えながら、私は松山行きの高速バスに乗った。バスの中ではずっとELLEGARDENを聴いていた。
夏に彼らと会った時は、あまりに奇跡のような、まるで夢の中にいるような感覚だったからか、数時間後には再び彼らに会えるというのに、全く実感が湧かなかった。




control-stick.hatenablog.com




とまあ、ライブが始まってしまうまではこんなにウジウジと湿っぽい感じだったんだけど、ライブが始まってしまえばもうこっちのもんなんだよな。




オープニングアクトのPRAY FOR MEから既に人が頭上をバンバン転がっていく。Zepp松山熱すぎる。1組目からブチ上げていったHEY-SMITHやSiMといった、タイプの違う音楽で踊り続けるのも本当に楽しかった。あ、SiMのMAHさんが細美さんとメチャクチャ仲悪い話はすげー笑ったな。




そうして始まった3組目のBRAHMAN。私は彼らのライブを観るのが初めてで、SEが流れ始めた瞬間に客席みんなが頭上で手を合わせ始めたので「なるほど、これは三代目J SOUL BROTHERSでみんなが印を結ぶみたいなアレか……」と思いながら私も頭上で手を合わせた。



ステージに上がったTOSHI-LOWさんが、自身の着ていたTシャツを引っ張ってアピールする。よく見ると、それはThe BirthdayのTシャツだった。



ああ、"そういうこと"か。



多分、あの会場にいた人の大体はそういう理解をしたんじゃないかな。
そしてそのことにはそれ以上触れないまま、ライブはノンストップで進んでいく。



ライブの終盤、BRAHMANのステージの上に細美さんが上がった。feat.細美武士で「今夜」が歌い紡がれていく。


歌い終わった後、TOSHI-LOWさんと細美さんは抱擁を交わして、そうして細美さんはステージを降りていった。ちょうど細美さんの顔が見える位置にいたんだけど、あの時の細美さんの顔がずっと忘れられない。




なんだろうな。こういう時の気持ちって、言葉にすればするほど、言葉では尽くせないものが言葉と言葉の間からぽろぽろと零れ落ちて、どんどん陳腐になっていく感じがして、正直本当はしたくない。でも紡がなきゃ、この瞬間がどこかに行ってしまう気がして、それもすごく怖いんだよな。





この日のTOSHI-LOWさんのMCが、とてつもなく心に残っている。


チバさんの名前を伏せたまま、The Birthdayの名前を伏せたまま、TOSHI-LOWさんは「本当は、明日あのバンドが出演するはずだった」と口にした。流石にそれは予想してなかった事実で、かなり動揺をしたのだけど。



「きっと今頃前乗りしてて連絡が来ててさ。『おうトシロー、どうせ細美と飲んでいるんだろ?どこで飲んでんだ、1杯飲もうぜ』って……。また飲みたかったなぁ」



淋しそうにチバさんの話をした後、更にこう続けた。



「コロナのあったこの時代に当たり前があるなんて思うやつはバカだ。『次のライブがある』なんて思うやつはもっとバカだ。この一週間……いやそれだけじゃない、この一年間、俺たちは何度も何度も、『当たり前なんてない』ことを感じてきたろ。
俺たちにはなにも分からない。明日のことも一年後のことも。唯一分かるのは『今この瞬間』だけだ。だからライブには行ける時に絶対に行け。次なんてないんだ。『今この瞬間』を全力で生きろ」




"別の場所"での私を知っている人なら分かるだろうが、私がここではないSNSの場でずっと使っていた「今この瞬間」という言葉をTOSHI-LOWさんが使っていて、どうしようもなくハッとした。




そうだった、私、いつから「今この瞬間」って言葉を使わなくなってたんだっけ。




私はかつての推しとの別れからここずっと、「いつか必ず訪れるさよなら」ばかりを怖がって、ずっと泣いていたような気がする。
あんまりに辛くてもう何かを好きになることなんて辞めたくて、でもそれが自分には無理なことに本当に心底がっかりした。



何かを好きになることをやめられないくせに、「でもどうせいつかは全部さよならなんだろ?」って半ば悟ったような、諦めたような顔を、私はずっとしていなかったか。



いや、そうじゃねえだろ。



1年と半年前、かつての推しが引退を発表する直前のツアーの最中、急に「私はいつまであの姿を見ることができるんだろうか」という気持ちに急に襲われた。それから私は何かに駆られたように行ける現場のチケットを増やした。「今この瞬間」をこの目に焼き付けることに必死になった。
そしてその予感は、すぐしばらく後に(あまり的中してほしくなかったけど)的中してしまったのだけど。



でもあの時の私には確かに、過ぎ去った過去よりもまだ見ぬ未来よりも、""今この瞬間""が全てだったんだ。




そうだった。答えはずっと"ここ"にあったし、自分でずっと持っていたんじゃないか。ただ、自分で勝手に見失っていただけで。



そんな、私が見失っていた大事なことを思い出させてくれた(まあ、私が勝手に思い出しただけなのだけど)TOSHI-LOWさんには、本当に感謝しかない。本当に勝手な話だけれど。








そしてこのMCがあったからこそ、その後のエルレのライブで「飛べた」。この飛べたはニュアンスの話だよ。
TOSHI-LOWさんのあの言葉がなかったら、私はまた「今この瞬間」の彼らの目の前で、「未来のさよなら」に気を取られていたかもしれない。


それほどまでに、多分本当に久しぶりに、過去でも未来でもない、ただ「今この瞬間」に全てを委ねることができた。




まだサマーパーティーの一度しかエルレのライブには行ったことがないけれど、それでもエルレのライブで起こるシンガロンが私はとてつもなく好きだ。


「Space Sonic」の最中だったか、この日も細美さんは歌いながら「ほら、お前らももっと歌えよ」「もっと来いよ」と言いたげに、立てた人差し指をくいくいと動かして促してくる。その仕草に観客の歌声が更に大きさを増す。



ライブ中に歌う行為は、まあ界隈が違えばマナー違反になることがある。私自身もそういう現場に身を置くことだってあるのだけれど、だけどことエルレのライブに関しては「そういう次元の話じゃない」ような気が勝手にしている。まあ私がそう勝手に感じているだけだとしたら、なんというか申し訳ないけれど。


細美さんが「ほら、お前らももっと歌えよ」と言いたげに、そうこちらに意思を示してくれるのだ。
「同じ場所で一緒に歌う」という行為は、本当に、どう足掻いたってライブ会場でのその場所でしかできない。でもそうやってそれを求めてもらえるのはなんだか、すげー嬉しいじゃないか。



だから私も全力で歌った。
そうやって「今この瞬間」を刻みたかったのだ。



ライブっていうのはすげーよな。同じ曲でも、その時の場所その時のタイミングで、全く違う曲に聴こえてくる。そして私はその感覚がとてつもなく好きで、この日はずっとそれを感じていた気がする。




大暴れ曲!という感じの「BBQ Riot Song」でさえも、今日はどこか切なく聴こえた。


"I remember you
 See you sometime on the beach"


最後のこのフレーズを歌う細美さんが、なんだか少し悲しそうに見えたのは、私がただそう見たかっただけなんだろうか。



その直後に始まる「Missing」。意図してないとは言わせないようなセットリストだ。





この日は、忘れられない瞬間があまりにも多すぎる。




 "We're Missing you"
そう歌う時の細美さんの表情だったりな。






「他人(ひと)の作った曲を何度も演るのは好きじゃないんだけど、……これを俺たちのレパートリーに加えるつもりもないし、今日演るのが最後になると思う。49日まではまだその辺にいると思うから、どっかで俺の歌聴いて、『ヘタクソだな』って笑ってくれてたらいいな。………チバさん、さよなら」
そう"チバさんがいるであろう場所"を一瞥し、上を指差しながら。


その言葉から紡がれたのは、The Birthdayの「涙がこぼれそう」のギターイントロだった。



この時のことは本当に言葉にするのがあまりにも野暮すぎるので、もう話さないことにしておく。






そして「Make A Wish」直前には。
「……チバさんはさ、TOSHI-LOWのことをトシって呼ぶんだよ。……『おい細美、トシ知らねぇか。3人でこれから飲みに行こうぜ』……」



それ以上、細美さんは何も言わなかった。
細美さんの願いが何だったのかは、私には想像することしかできない。







「しんみりしてごめんね」
細美さんはそう言いながら、「Make A Wish」後にこう口を開いた。



「……どうせお前らもあるんだろ。落ち込んで、もう全部どうでもよくなって、全部捨てたくなるような日とかさ。……さっき『Make A Wish』の直前にそれになってさ。『もうどうでもいいや』って……。でもパッと顔を上げたら何人もリフトやってるガキ共の笑顔が飛び込んできたからさ(笑)、おじさんもうちょっと頑張るわって。」




この「落ち込んで、全部どうでもよくなって全部捨てたくなるような日」に私は心当たりしかなくて、赤べこのように頷いてしまった。なんでこの人は、そういうのがすぐ言葉にできるんだろうな。
この時この瞬間、ステージの上でそうなっていたように、細美さん自身が、そういう日をこれまで何度も過ごしてきたからなのだろうか。





「俺、心から尊敬できる先輩って本当にいなくてさ。
(ブンブンの)川島さん……チバさんも最近ね。
チバさんってさ、ホント正直な人なんだよ。あんな正直な人いないってくらい馬鹿正直で。嘘のひとつぐらいつけばいいのに。そう思いながら、その姿をずっと横目で見てた。
これからの人生、俺もあんな風に生きていきたいと思うんだよな。


世の中、できるだけ波風立たないように綺麗事ばっかり言うヤツらしかいねえよな。その辺の大人は嘘ばっかりつくよ。でも俺は絶対、綺麗事なんか言わずに生きてやるから。……お前らもそうだろ、『絶対嘘なんかつかねえ、そういう大人もいるんだ』ってことを、俺が証明してやるよ」



このMCから始まったアンコールの「金星」は、多分この夜にしかない聴こえ方をしていたように思う。


"最後に笑うのは正直なやつだけだ"

"ねえ この夜が終わる頃僕らも消えていく"


あの瞬間の細美さんの顔が、今でも脳裏に焼き付いている。





そして最後の曲は「Strawberry Margarita」。
サマーパーティの時もそうだったけれど、直前の曲までどれだけしんみりしてしまっても、最後はみんなで笑って帰ろうぜ!と締めくくるELLEGARDENのライブが私は大好きだ。沢山の人の多くの想いが渦巻く中、ELLEGARDENはこの日も最高の笑顔でステージを後にした。






あれからずっと、私はこの日のことを考えている。






この日のライブは、まるで「君たちはどう生きるか」ならぬ「お前はどう生きるか」と問われてるようなライブだった。


エルレにまた会えたというのに、かつての8月の時のような、「嬉しくてテンション爆上げハイパー無敵モード」になるわけでもない。ただずっと淡々と、あの日のことを考えている。



あの日はただひたすらに、「俺たちはいつか死ぬ。当たり前も次もない。人生は一度きりで、一日先も一年先のことも自分には何一つ分からない。ただ唯一分かるのは『今この瞬間』だけだ。ならお前は今この瞬間、今この場所でどう生きる?」そう問われているようだった。



でも、だとしたら。
「いつか来るであろう未来の別れ」にビビって泣いてる場合じゃねえだろ。




後にも先にもこんなライブ、今まで体験したことはない。



なんかやっと、やっと目が覚めたような気がする。
なんだろうな。もうこの1年間とちょっとの間のように、「いつかの(しかし必ず訪れる)未来」にずっと気を取られてビビって泣いて、「今この瞬間」を見失うようなことは、もう二度としたくないと思った。



とはいえ、それでもまた悲しむかもしれないけれど。
でもそれでも。
多分これが私にとっての「現実」なんだと思う。