鯛が「今この瞬間」について話す

魚類が自分にとって大切な「今この瞬間」を書き残す

満月の見下ろす秘密の夜にまた会おうぜ

夜が好きだ。夜が好きだという明確な自覚がいつ頃からあったのかというと、ぶっちゃけかなり最近かもしれない。でも昼より夜のほうが、今の私は多分ずっと好きだ。



私の勝手かつ個人的な印象だが、夜は優しいと思う。夜は、その暗闇の中に全部を隠してくれるような気がする。
もちろんぐっすり寝ててもいいし、眠れなくて起きててもいい。一人隠れてこっそり泣いてもいいし、誰かとこっそりクスクス笑いあってもいい。その全部を暗闇の中にすっぽり隠して「いいよ」と許してくれる、なんとなく夜は、そんな優しさがある気がする。



昼はなんか、「はい、明るくなったから起きなさいよー!はい動きなさいよー!」って言われてるような、なんだかその明るさに急かされているような気がして、「やかましい母ちゃんみたいでいやだな〜」と思いながら、私は休みの日に布団に入り込んでいたりする。
高校生の頃、学校に行かなきゃいけないのにメンタルがぐじゅぐじゅすぎていつまで経っても布団から這い出せなかった平日の昼間の空気とか、そういうのも本当に死ぬほど嫌いだったもんな。


まあとは言いつつ、昼は昼で好きなところはあるんだけども。






少し前の話をしよう。
前回の満月の夜の日の話だ。9/29だったかな。
この日は中秋の名月と満月がちょうどぶつかる日だったらしく、ピカピカに晴れた夜空に輝くドデカい満月におおすばらしい、と思いながら深夜に30分ほど近所を散歩したのだ。






その夜がとにかく、まっこと良かった。






その日は散歩のお供として、the HIATUSの「Our Secret Spot」を聴きながら歩いた。




the HIATUSは、私が音楽と少し距離ができるまではよく聴いていたバンドだった。もともと、細美武士のことも好きだったしね。


でも高校を卒業した後、私と音楽に少しだけ距離ができた。
それ以降にリリースされた、4thアルバム以降の彼らの歴史を、私はついこの間まで知らなかった。




自分が留守にしていた期間の、自分の知らなかった彼らの歴史を辿るように、4thアルバム以降の彼らの音楽を聴き始めたのが、ちょうど9月の終わりだった。





彼らの最新の(と言いながら、2019年リリースの)アルバムである「Our Secret Spot」を初めて聴いた時、「なんだか、月明かりの下でこっそりと秘密を明かすみたいなアルバムだな」という印象を抱いた。



と思ってぼんやりアルバム名と曲名を眺めていたら(基本的に曲名を把握した上で音楽を聴いたりしないタイプ。つまり典型的な曲名が覚えられない人間だ)ラストの曲が「Moonlight」だし、ていうかもっと言えばアルバムタイトルの直訳は「ぼくらの秘密の場所」で、なんとなく自分の感性が冴えてて少し笑った。




その流れでぶつかったのが、9/29だったのだ。




そんなの、もう「Our Secret Spot」を聴きながら散歩するしかないじゃないか。





Our Secret Spot。ぼくらの秘密の場所。
ネットで見つけた、当時このアルバムをリリースした時の細美さんのインタビューで、彼は


「本当の秘密の場所は人に教えるものじゃない」


と語っていた。





ある意味あの時の時間も、私にとってはそうかもしれないな。




生きていると「どうしたって、結局誰とも共有できないものっていうのはあるよな」という気持ちになることがある。昔はそれが悲しいことだと思っていた時期もあったけど、最近少しずつ「他人と共有できっこない、自分しか知らない自分だけの宝物があっていい」と思うようになってきた。



そしてそう思ってもいい、誰とも共有できない、自分だけの宝物を隠れてこっそり持っていてもいいのだと、そうこっそりと、月明かりの下で囁くように教えてくれたのが、私にとって「Our Secret Spot」であり、あの満月の、中秋の名月の夜であったのだ。







いや、ここでそれを言ってる時点で秘密じゃないんじゃない?と言いたくなるかもしれないが、あの夜を「本当の意味で知っている」のは、私と、あの夜に私のことを見下ろしていた満月だけだ。だから、これは私にとって誰とも共有することのできない、とっておきの秘密だ。
(でも、あの夜に私を見下ろしていた満月だけは私のこの秘密を知っているのも、なんだか二人だけの内緒みたいで素敵だろ)




誰とも共有できない、秘密の夜があったっていい。
私はまたきっとそのうち、あの月の下で優しい秘密の夜を過ごすのだろう。



Regrets

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