鯛が「今この瞬間」について話す

魚類が自分にとって大切な「今この瞬間」を書き残す

音楽の話@ZAZEN BOYS

音楽を通して、他人の世界を知りたいと思った。

高校生の頃の私は、そんな気持ちでとにかくやたらと音楽を聴き漁っていた。
タワレコに入り浸り、TSUTAYAやゲオで気になるCDをレンタルしまくった。休日にはYouTubeで邦楽洋楽問わずさまざまな音楽を夜な夜なディグりまくり、気付いたら夜が明けていた時もあった。高3の頃には、ライブハウスに毎週のように通っていた時期もあった気がする。受験生のくせになかなかのアホである。

悲しいことに友達がマジでいなかった(作らなかったというのが正しいかもしれない。このコミュ障め)ので、音楽が友達代わりみたいな高校生活を送っていた。こう書くとマジで虚しさがあるが、でも事実なのだからどうしようもない。

通学時間も休憩時間も昼休みも、イヤホンを装着して、外界を遮断していた。他人の世界を知りたいと思っているくせに、現実の身の回りの世界のことは拒絶していたんだから、今思うととんでもないダブルスタンダードである。でもそうすることでしか自分自身を何かから守れなかった気もするので、一概にそれを否定するつもりも毛頭ない。そのおかげで得られたものもたくさんある。


ZAZEN BOYSは、そんな高校生活の間に聴き始めたバンドだった。
元々はNUMBER GIRLから聴き始め、「こんなにカッコいいバンドがもうこの世に存在しないのかよ……出会った時点でNUMBER GIRLには出会えないことが確定してる人生……」と絶望したりもしたが、音源の中だけでも彼らは本当に伝説だった(そしてこののちにNUMBER GIRLは再結成し、その再結成期間中に二度も生きた彼らのライブに行くことができたことは、この頃の自分に教えてやりたい)。


まあNUMBER GIRLを知れば、必然的にZAZEN BOYSにも出会うことになる。
確か一番最初に耳にしたのは、デビューアルバムの「ZAZEN BOYS」だった。このアルバムを聴いていた当時のことはあまり思い出せないが、でも繰り返し聴いていたことは覚えている。その後に当時リリースされた5枚目のアルバム「すとーりーず」を購入し、「はあとぶれいく」や「破裂音の朝」を聴きながら重たい体をなんとか引きずりながら学校に向かっていたことを覚えている。


私がZAZEN BOYSの音楽を一言で説明すると「よくわからん」になる。マジでよくわからん。マジでよくわからんけど、でもメチャクチャにかっこいい。
ただひたすらに「本能寺で待ってる」というフレーズを繰り返したり、居酒屋でボウルにいっぱいのポテトサラダが食いてぇと言っているだけかと思いきや、ふとしたタイミングでこっちの心を掬い上げてくるようなフレーズを投げかけてくる。あまりにも実験的な音楽で脳みそを揺さぶってくる。うーん、マジでよくわからん。

でも、そのZAZEN BOYSのよくわからんさが私はとにかくメチャクチャ好きだ。細けえことを抜きにして、脳みそを空っぽにして、全力で音の「カッコよさ」に身を預けられる感じがする。


ZAZEN BOYSはライブもやばい。向井秀徳と、向井秀徳が立ち上げたレーベル「MATSURI STUDIO」にゆかりのあるバンドやアーティストが出演するイベントのことを「THE MATSURI SESSION」と呼ぶのだが、ZAZEN BOYSのライブは、ライブというよりもはやこのイベント名にある「セッション」に近いと私は思っている。
ギターとベースとドラムが、まるで対話するように、しかし対話というよりはもうちょっと暴力的にぶつかり合いながら、音のうねりを生み出していく。リアルタイムに、自分の目の前で。だけど、楽器同士がケンカしないのである。素人でも演奏レベルの高さが分かる。いや、演奏そのものだけでなく、メンバー同士の、人と人との息づかいがひとつになっていくような、まるで一つの音の生き物が目の前にいるような感覚に陥る。これを目の前で浴びる気持ち良さったらもう、なんかもうとんでもないのだ。とにかく本当に。


そしてこれは完全に自慢になるが、岡山で毎年秋に開催される音楽フェス「stars on 2021」で、まさに私はこの「セッション」を最前で浴びたことがある。
その時演奏された「HIMITSU GIRL'S TOP SECRET」で、彼らの刻むリズムに身を任せて最前で揺れまくっていた私を向井秀徳氏が見つけ、しばらくの間、お互いに見つめ合いながら一緒にリズムを刻んだというとんでもねー体験をした。
向井氏と共にリズムを刻んだあの瞬間だけは、もしかしたら私も向井氏と「セッション」をしていたんじゃないだろうか、という気持ちになった。まーよくもそんな大それたことを言えたもんだと自分でも呆れるが、でも恥ずかしげもなくそんなことを思ってしまうほどに、音楽を通して一つになれたような、それぐらいとんでもない体験だったのだ。


ZAZEN BOYSというバンドの在り方そのものが好きなので、好きな楽曲なんてありすぎるほどなのだが、強いて上げるとすれば、私は「CRAZY DAYS CRAZY FEELING」が好きだ。
「生の実感だけは持っとこう 頭どんだけ狂っても」というこの歌詞に、一体何度救われてきたか分からない。
真っ当に生きようとすればするほど生き辛く、息が詰まり、生の実感を失いそうになるこの世の中に、この歌詞のある曲が存在していることが、私にとって幾つかある救いのうちの一つである。


生の実感を失うくらいなら、頭が狂った方がよっぽどマシだ。そう言ってくれるこの曲があったからこそ立つことのできた一日が私にはこれまで何度もあったし、これからもそんな一日がたくさんあるんだろう。
そしてその度に私はZAZEN BOYSを聴くのだろうと、ぼんやり思っている。


Crazy Days Crazy Feeling

Crazy Days Crazy Feeling